【トットてれび】向田邦子さんの直木賞受賞記念パーティーでのスピーチとは?

『小説新潮』に連載中の連作「花の名前」「かわうそ」「犬小屋」が、直木賞候補になり、昭和55年(1980年)に、そのまま受賞(思い出トランプ)する。

向田邦子さんは、大騒ぎするのは大嫌いで、直木賞受賞記念パーティーなど開くつもりはなかったのでしょうが、まわりの人に説得されて開くことに。

その大パーティーの司会は、向田邦子さんのたっての頼みで黒柳徹子さんがすることになりました。

そのパーティーでの出来事とは・・・。

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森繁久彌さんのスピーチ

東京プリンスホテルの大広間で始まった向田邦子直木賞受賞記念パーティー。

最初に挨拶したのは森繁久彌さん。

雑誌の編集をしていた向田邦子さんを放送界に引っ張りこんだのが森繁久彌さんで、「七人の孫」「だいこんの花」などの作品を一緒に作ってきたということで、最初にスピーチをすることになったのでしょう。

森繁さんは、こう切り出します。

「向田さんとは、一番古い仲でして。二人の間に事件も・・・(エヘンエヘンと咳払いをして)・・・ありましたので、いちばん最初の挨拶というのも適当かなと。三十年のつきあいになります。あの頃、この人は◯女であったように思います。つまびらかではありませんが。で、暇を見つけては、『一晩でいいんだけど』と言い寄りまして。ああ、下品な言い方でした。直木賞の方に、こういう言い方するなんて、ダメに決まってますんですけど。向田さんは軽く、受け流して『まあ、そのうちにね』・・・」

森繁さんの肉声が聞こえてくるようです。

声色、間、抑揚、表情・・・。

ちょっとエッチな森繁さんの本領発揮です。

このスピーチに、会場は大爆笑で、向田さんも大笑いをされていて、「口に手をあてて、上目使いに森繁さんを見ながらの、とても色っぽい大笑いだった」と黒柳さんは語っています。

その後、様々な方、女優さん、俳優さん、放送作家仲間・・・が挨拶をされました。

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向田邦子さんのスピーチ

森繁さんのスピーチは素晴らしかったですが、向田さんのスピーチもまた、素晴らしい。

ユーモアもあり、次に何を言うんだろうと聞き耳を立ててしまいます。

パーティーでの乾杯の前に、黒柳さんからの「向田さんから、とにかく、一言」に促され、向田さんはマイクの前に立ちます。

いつもの、そして少し早口の、やさしく丁寧な口調で。

素晴らしいスピーチなので、『トットひとり』(黒柳徹子著・新潮社刊)の55頁のところを一部引用します。

「私は長いこと、男運の悪い女だと思い続けてきました。この年で定まる夫も子供もいません。でも、今日、こうやって沢山の方に、お祝いをして頂きまして、男運が、そう悪いほうじゃない、という事が、やっとわかりました。私は欲がなくて、ぼんやりしておりまして、節目節目で、思いがけない方に、めぐり逢って、その方が、私の中に眠っている、ある種のものを引き出して下さったり、肩を叩いて下さらなかったら、今頃は、ぼんやり猫を抱いて、売れ残っていたと思います。ほかに、とりえはありませんけど、人運だけは、よかったと本当に感じています。・・・」

何気ないお話ですが、心に染み入るスピーチです。

「それと、今日は十月十三日ですが、この日は、私の中に感慨がございます。五年前のいま頃、私は手術(乳ガン)で酸素テントの中におりました。目をあけると、妹と澤地久枝さんがビニール越しに私を見ていたので、『大丈夫』といったつもりが、麻酔でロレツが廻りませんでした。そして、明るく人生を過ごすことが出来るのか、人さまを笑わすものが書けるのか、どれだけ生きられるかも自信ありませんでした。頼りのない気持ちでした。でも、沢山の方のあと押しで、賞も頂き、五年ぶりに、いま『大丈夫!』と御報告できるように思えます。そんなわけで、お祝いして頂くことは、私にとって、感慨無量です。ありがとうございました。」

縁ある方々にお祝いしていただいた喜び、感謝の気持ちが溢れた素晴らしいスピーチです。

そして、パーティーが終わるときに、マイクの前に立ち、締めくくりの挨拶をされます。

「今日は一生に一度の光栄だと思っています。」

この日から、1年たたない、1981年(昭和56年)8月22日、旅行中の飛行機墜落事故で帰らぬ人になります。

おばあさん役の黒柳徹子さん

NHK土曜ドラマ【トットてれび】には、たばこ屋のおばあさん役で黒柳徹子さんが出てきますね。

何のために出演しているのか分かりませんでしたが、黒柳さんの本を読んでみて、その理由が分かりました。

脚本家の中園ミホさんが、向田さんが黒柳さんにした約束を果たしてあげようと思ったのではないでしょうか、そんな気がします。

黒柳さんは、向田さんから言われていたそうです。

「私が書くようなものに、徹子さんみたいな人は出てこないのよね。でも、外国映画のおばあさんみたいに、あなたしかできない面白いおばあさん役ってあるから、早くおばあさんになってね。私、書くから」

こう言われて、黒柳さんは、確かに、「時間ですよ」や「寺内貫太郎一家」には、自分の出る役はないなと思ったそうです。

結局、事故で向田さんが亡くなったため、向田さんが書いたドラマに黒柳さんが出演するすることは叶いませんでした。

今回のドラマでは、黒柳さんがおばあさん役で出演することで、向田さん(ミムラさん)と一緒に出演することができたわけです。

向田邦子さん、若い頃の森繁久彌さん、渥美清さん、坂本九さん、沢村貞子さんに会うために、黒柳さんが未来からやってきたんですね。

みんなと再会できて、黒柳さんも喜んでおられるのだと思います。

直木賞受賞作 『思い出トランプ』

思い出トランプ (新潮文庫)の中の、直木賞受賞作(かわうそ、花の名前、犬小屋)を読みました。

面白いというより、怖い小説と言ったほうがいいかもしれません。

浮気の相手だった部下の結婚式に、自分だけでなく夫婦で出席する話=「三枚肉」、かわうそのような残忍さ(かわうそって残忍なの?)を持つ妻の話=「かわうそ」などの13作品が収められています。

AMAZONのカスタマーレビューをいくつか確認してみてください。

きっと、怖いもの見たさで、読みたくなりますよ。

つい最近、何気なくこの本を読んでみて、13作品すべてがすばらしいと感動すると同時に、そのすばらしさを他人に説明することがいかに難しいかも理解できた。

かわうそ

097197

ねたばれになるので、小説を読まれる前に、余計なことは書きません。

少しだけ。

作品名がなぜ「かわうそ」なのか。

それは、主人公の宅次の9歳年下の妻 厚子の顔がかわうそに似ていたから。

宅次が脳梗塞になって、会社を休職するようになっても、「病気はたいしたことないわよ」と明るく励ましてくれる、自分には過ぎた女房だと、宅次は思っていました。

機転も聞く女房で、家に車のセールスが来たら、「ごめんなさいね、うちの主人、車関係なの」、化粧品のセールスが来たら、「主人が化粧品関係に務めているの」と追い払っていました。

いつもは知らない、そんな女房の対応を、休職で自宅にいて初めて気づき、「面白い女と一緒になった」と宅次は思います。

ところが、あるとき、ふと、「女房はかわうそに似てる」と思うんですね。

かわうそって、どんな動物なんだろうと思いますが、ラッコの仲間なんですね。

愛らしいラッコに似た顔なら愛嬌があっていいと思いますが、そうではないんです。

かわうその習性が厚子に似ていると思ったのです。

しかも、その習性は、怖い習性。

かわうそは、いたずら好きである。食べるためでなく、ただ獲物をとるためでなく、ただ獲物をとる面白さだけで魚を殺すことがある。殺した魚をならべて、楽しむ習性があるというので、数多くのものをならべて見せることを獺祭図というらしい。

弱肉強食の世界で、生きるために食べる、というのではなく、ラッコの仲間は、遊びのために殺しちゃうんです。

隣家の家事の時も、娘の葬式の時も、宅次の病気の時も、かわうそのようにはしゃぐお祭りだったのではないかと考えた時の恐ろしさを二十数頁で綴られています。

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