『ぼくの会話学校』(森本哲郎著・角川書店)は、小説としても面白いですが、会話術のテキストにもなる本です。
昭和56年の発行で、本屋さんの店頭にはなく、アマゾンのマーケットプレイスにも、今の時点で6冊しかありません。
古い本なので、この本のことをご存じの方は、あまり多くないかもしれません。
会話が弾むようになるヒント、会話が楽しくなるための準備をどうやったらできるか、が分かるようになります。
大事だなと思うところをまとめてみました。
セキセイ会話学校
口下手で、損ばかりしている一人の青年が、会話がうまくならないかと、ある日見つけた新聞広告にあった『セキセイ会話学校』に入学します。
その青年(十茶)が、セキセイ会話学校に入学してからの顛末が、授業内容とともに綴られている小説です。
この学校の先生は、名前も変ですが、ユニークな先生ばかり。
授業内容も、アラビアンナイトが出てきたり、デカメロンが出てきたり、楽しい内容です。
是出由(これでよし)先生の愛の会話上達法
松尾武尊先生から十茶とニックネームをつけられた十茶(小林一茶をもじって十茶)君は、授業中に是出由先生に質問します。
「女性に何を話したらいいのか、分からないんです・・・さっぱり見当がつかなくて・・・」
この質問を聞いて、是出由先生は語ります。
「話というものは、するもんじゃなくて、つくるもんなんですよ。いいですか、みなさん」
「ところが、話はするものと、たいていの人は思っているんですね。それがいけないんです。話は文章とおなじです。文章というのは、するもんじゃなくて、つくるもんでしょ。一応頭のなかで考えて、考えたことを言葉に直して、表現を工夫して、それで書くもんですわね。ですから文章というのは、そうかんたんには書けないんです。話というのもそれと同じなんですよ。よござんすか」
是出先生の話を聞いて、ある生徒が控えめに反論します。
「でも、そう考えたら、ますますしゃべれなくなってしまうと思うんですけど・・・」
是出先生「ですから訓練なんですよ。訓練なしに何事も上達しません。ところが、話はするものだとそう思っているから、みんな訓練しないんですね。そこで話のつくり方を一向に覚えないんです。話というものは訓練さえすれば、メキメキ上達するのにねえ」
材料を仕込むこと
是出先生「お料理だってそうでしょう。手持ちの材料がなければ、おいしい料理できませんわね。会話というのをお料理だと思えばいいんですよ。つまり、話題をいつも豊富に準備しておくことです。そのためには、自分のなかに大きな袋を用意しておかなければなりません。買物袋のように何でも入る袋ね」
生徒「でも、袋って何ですか? 袋といわれても、よく意味が分かりません」
是出先生「袋といったって、まさか買物袋を呑みこむわけにはいかないでしょう。つまりですね、自分の心をひろーくあけて、何かに興味を感じたら、それを片っ端からその心の袋のなかに入れておくということです。そうすれば、時と場合に応じて、いくらでもそこから材料を取り出して利用できますでしょう。そのような袋を年じゅう利用していれば、話をしているときに、つぎからつぎへと思い出すもんです。とにかく材料をうんと仕込まなければ、それこそ話になりません」
生徒「先生、具体的にどんなふうに仕込むんですか?」
是出先生「それは、もう、いろいろですね。たとえば、テレビを見ていて、面白いな、と思ったら、すぐ袋に入れます。本を読んでいて、アラ、そうなの、と思ったら、それもすぐに袋に入れる。だれかと話をしていて、へえー、感心したら、それも袋に入れておきます」
人間を研究すること
是出先生「会話というのは人とするものでしょう。自分だけでするもんじゃないわね。いわば相手との共同作業、チーム・ワークです。とうぜん、相手の性格ということが前提になります。話のまずい人というのは、だれかれ見境なしにしゃべる人のことです。相手がどういう人であるか、まずそれを見きわめて、相手の関心に訴えるように話題をえらび、相手の正確に応じてやりとりをする。もちろん、こういうことはみんなそれぞれにやっていることだと思いますけれど、あたしにいわせれば、まだまだ研究が足りませんねえ。だから、話がポツンときれてしまったり、欠伸をかみ殺すのに一苦労だったり、うんざりしたり、要するの話がはずまないんですよ。ですから、会話学の必須科目は、何といっても相手の研究、そして、同時に自分の研究、つまり人間の研究です」
ノラリ・クラリーノ先生の会話の楽典
イタリア人のノラリ・クラリーノ先生は、「みなさんがたは、あまり自覚していないようですが、日本語は情緒ゆたかで、音楽的にも美しい言葉なんですよ」と言って、黒板に体系的にまとまった形容詞と副詞を板書していきます。
〈あ〉の下に、〈あっさり〉〈あんまり〉〈あんぐり〉
〈か〉の下に、〈かっきり〉〈かっちり〉〈ガラガラ〉〈ガリガリ〉
〈が〉の下に、〈がっかり〉〈がっぽり〉〈ガラガラ〉〈ガリガリ〉
〈き〉の下に、〈きっかり〉〈きっちり〉〈きっぱり〉〈キラキラ〉〈キリキリ〉
〈ぎ〉の下に、〈ぎっしり〉〈ギラギラ〉〈ギリギリ〉
ノラリ・クラリーノ先生「ほーら、こんなぐあいです。どれも四音節でしかも第四の音節はラ行のリで統一されているでしょう」
ノラリ・クラリーノ先生「ね、みなさん、ニッポン語はじつにうまくつくられているでしょう。たとえば〈ソロソロ〉というのは、ソロソロ出かけましょうというふうに、徐々に、ゆっくりと、という意味ですね。それが〈ゾロゾロ〉になると、たくさんの人たちが引きつづいて行く様子をあらわします。〈フラフラ〉というと何かこう足もとがおぼつかない千鳥足の様子ですが、それを〈ブラブラ〉と濁るとゆったりとして目的も持たずに散歩するときの形容になる。こんなふうに微妙に意味が変わるんですね。しかもそれらはみなラリルレロの行で統一されている。・・・」
ノラリ・クラリーノ先生「こういう響きのいい言葉、イメージの鮮やかな言葉を巧みに使って、会話のリズムやトーンを音楽的につくり出す努力をしなければなりません。美しい日本語をいよいよ美しくするためにね」
生徒「先生、例をあげてみてください」
ノラリ・クラリーノ先生「たとえばです。この黒板見えますか?」
生徒「ハイ。はっきり見えます」
ノラリ・クラリーノ先生「はっきり見える?そういう場合には、それとおなじようなリズムとイメージの言葉を、ふたつ重ねていうんですよ。ハイ。黒板の字、ハッキリ、クッキリ見えます、とね。どうですか、それで言葉のトーンがまるでちがってくるでしょう。ぐっと音楽的になりますものね。」
ノラリ・クラリーノ先生のいう体系的にまとまった形容詞と副詞を少し、表にしてみました。
会話のリズムやトーンを音楽的にするために、このような言葉を使ってみませんか?
重ねて使えるようになったら上級者ですよ。
ウ | ク | グ | ス |
うっかり | くっきり | ぐっさり | すっかり |
うっとり | ぐっすり | すっきり | |
うんざり | ぐったり | すっぽり | |
すんなり | |||
ウラウラ | クラクラ | グラグラ | スラスラ |
ウロウロ | クルクル | グリグリ | スルスル |
グルグル | スレスレ |
コ | ゴ | ボ | ポ |
こっきり | ごっそり | ばっかり | ぽっかり |
こっくり | ごってり | ぼっくり | ぽっくり |
こっそり | ぼんやり | ||
こってり | |||
コリコリ | ゴリゴリ | ボリボリ | ポリポリ |
コロコロ | ゴロゴロ | ボロボロ | ポロポロ |
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