
脳卒中というのは、脳梗塞と脳出血とくも膜下出血の三つの病気の総称です。
昔は、脳梗塞よりも、脳出血のほうが多く、脳出血は脳溢血と呼ばれていました。
今では、脳卒中の中では、発病者、死亡者共に、一番多いのが脳梗塞です。
脳梗塞、脳出血発症により、半身不随となったり、手が使えなくなったりします。
マヒを治すためにリハビリを始めるのですが、最近注目すべきリハビリが開発されました。
それは、「川平法」です。
脳梗塞発症後3時間から数か月が機能回復の「ボーナス期間」
脳梗塞発症後数分で、「神経細胞の窒息」が始まります。
私たちの脳は神経細胞が集まってできています。
その細胞の数は千数百億個。 その細胞1つ1つに軸索と言われる電線のようなものが、細胞と細胞をつなげています。
その軸索をすべてつなげると、100万kmの長さになります。
この長さは、日本のすべての道路をつなぎ合わせた距離に匹敵します。
その神経細胞が働いて、脳の高度な働きが行われているのです。
脳梗塞等の脳血管障害により、神経細胞への酸素や栄養分が補給されなくなると、神経細胞が死ぬまで、わずか数分しかかかりません。
しかし、神経細胞が死んでも、全ての細胞が破壊されるのではなく、絶望的になる必要はありません。
数か月までは、「機能回復のボーナス期」です。
一部の神経細胞が死んでしまっても、脳のネットワークは、やわらかくなり、変化していきます。
傷ついた神経細胞を無理にでも動かそうとすると、死んでしまった神経細胞の周りの神経細胞によって、体を動かすことができるようになり、どんどん回復していきます。
これが、脳梗塞が起きたら出来るだけ早く、始めることの理由です。
では、6か月を過ぎたら、「機能回復のボーナス期」は終わり、機能回復が難しくなるかというと、そうではありません。
医師から、「これ以上の回復は望めません」と宣告された患者さんでさえ、介護の工夫次第で劇的な回復を示す事例がたくさんあります。
患者さん本人も、家族の方も、決してあきらめないでください。
やはり、体を動かそうとすることが大事です。
食事の時も、マヒした手を本人ができるだけ使えるように形や大きさを持ちやすいように工夫したフォークやスプーンにしたり、食材を大きめにカットして取りやすくするなどの工夫をすることによって、機能が回復していくのです。
1年、2年と、そうした生活をすることにより、何千、何万回、「動かそう、動かそう」とすることによって脳が変化し、体の機能が回復していきます。
発症後6か月以上でも効果大の「川平法」リハビリ
鹿児島大学病院霧島リハビリテーションセンターは、国立大学の医学部が持つリハビリ専門施設です。
そこで、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの多くのスタッフの皆さんで、「川平法」リハビリが行われています。
鹿児島大学の川平教授が、長年、患者さんと向き合い、開発したリハビリ技術が、「川平法」です。
4年間動かなかった指が、わずか10分の「川平法」リハビリで動き出すこともあります。
促通反復法とも呼ばれる「川平法」は、例えて言うと、ゴルフのレッスンのようなものです。
レッスンプロが初心者の手や体に手を添えて、スイングはこうしてするんだよ、体の向きはこうだよ、と繰り返し教えるようなイメージです。
指を伸ばす練習の時は、「指を伸ばしましょう」と指示した際に、スタッフが伸ばしやすいように手を添えてあげるのです。
こうして患者さんが、楽に体を動かせるようにしてあげます。
「川平法」は、こうしたスタッフの手助け(促通)によって、自力ではできない動きを実現させ、何度も繰り返すことによって、機能を回復させていくリハビリ技術です。
私たちが持っているリハビリのイメージは、辛いもの、苦しいものというイメージでした。
少しぐらい痛くても、我慢してやり続ける、杖など使わないで歩くようにする、使わない筋肉は衰える、だから寝たきりにならないよう、リハビリを頑張らないといけない、と。
ですが、この「川平法」リハビリでは、「リハビリをラクにすることが、患者さんのマヒを改善させる」という考えなのです。
「頑張る」リハビリはダメです 頑張らないでください
2年間自宅のリハビリを頑張り、杖がなくても、ゆっくりなら歩ける患者さんがいました。
その患者さんが、鹿児島大学病院霧島リハビリテーションセンターに入院された時のこと。
スタッフの方から、驚くようなことを言われました。 「杖なしで、無理して歩いてはいけません。杖をついてください」と。
また、腕を上げる動作が出来るように、肩の痛みを我慢して、毎日肩をあげる運動をしていたのに、「決して頑張らないでください」と。
そんなラクなリハビリで、驚くべき機能回復を実現しているのです。
この「川平法」リハビリを実施しているのは、霧島リハビリテーション以外の病院でも、講習会などで技術を身につけたスタッフが「川平法」を行っている所があります。
お近くの病院が分からない場合は、直接、鹿児島大学病院霧島リハビリテーションにお問合わせなさるといいでしょう。
「川平法」については、書籍では、『NHKスペシャル 脳がよみがえる 脳卒中・リハビリ革命』(主婦と生活社)に詳しく書かれています。